ぱちぱちぱちぱち……
拍手の鳴り響く中、青年は目の前の出来事に目を丸くしていた。
「なんだったんだ……?」
一方のアリスは得意顔で人形をしまい、青年の元に寄って来た。子供達はまだ見たりないらしくもっともっととせがむが、アリスはそれをまた今度と上手くかわす。
拍手の鳴り響く中、青年は目の前の出来事に目を丸くしていた。
「なんだったんだ……?」
一方のアリスは得意顔で人形をしまい、青年の元に寄って来た。子供達はまだ見たりないらしくもっともっととせがむが、アリスはそれをまた今度と上手くかわす。
「さて、予想外の足止めを食ってしまったわ。さ、行きましょ」
事も無げに言うアリスに、青年は少々押され気味ながらも頷きつつその場を後にした。喧騒が遠く聞こえるようになった頃、青年がアリスに言った。
「あれは……なんなんだい?」
「魔法よ。魔法で私が操ってたの」
それが普通であるかのようにアリスは言う。青年はそんなの信じられるかといった表情でアリスに訊いた。
「魔法なんてあるものか。あれだって絶対に何か仕掛けがあるんだろう?」
「何でそんなこと言うのよ、あなた自身今さっき眼にしたじゃない」
「そもそも、僕は魔法なんて実際に見た事がな……あれ?」
自分の発言にとまどう青年。アリスも発言の違和感を理解した。
「実際に見た事がないって……記憶が戻ったの!?」
立ち止まって目を瞑る青年。アリスはその様子を心配そうに見つめる。だが、目を開けた青年は明るい表情をしてはいなかった。
「ダメだ……でも、確かに僕は魔法なんてさっき初めてみた、これは確かだと思う。何故かははっきりと言えないけど……あんな不思議な光景は感覚的に初めてだ」
青年の発言を聞いたアリスは、若干思うところがありながらもそれを口にはせず
「無理して思い出す必要はないわ。少しずつ思い出していきましょ、それより、あれは不思議な光景じゃなくってれっきとした魔法なんだってば」
と、言葉に少しばかりの不満を篭めて青年に抗議した。青年は申し訳なさそうにしながら、本当に魔法なのかい、と再び訊いた。
「ええ、そうよ。私は人形遣い。ただの人形を、魔法で操るのが私の魔法」
「じゃあ、人形には何も細工がされてない?」
「もちろんよ、見てみる?」
アリスは鞄から一体の人形を取り出して青年に渡した。青年は人形の各部を動かしたり、色んな角度から見たりしたが、おかしい所は見つけられなかった。
「確かに普通の人形だ……じゃあやっぱりアリスが動かしてたのか」
「だからさっきからそう言ってるじゃない」
青年はやっとの事でアリスの魔法を認めた。そして、その瞬間今度は急に大きな声でアリスを誉めた。
「凄いや! アリスは魔法使いだったのか!」
「きゅ、急にどうしたのよ……」
「だって凄いじゃないか! あんな事が出来るなんて」
「べ、別に凄くないわよ」
「それにしても今までずっとそんな事教えてくれなかったから、余計に驚いたよ」
青年に言われ、アリスはふと今までの事を思い返す。確かに青年に自分が魔法使いだとは言っていなかったかもしれないと思うと、少し不安な気持ちにもなっ た。青年に自分の印象が変わったか聞きたい気持ちと、それが怖くて言えない気持ちが渦巻く。もし自分に変な印象を持ってしまわれたら……そう思うとなんだ か胸がチクリと痛んだ。
「どうしたの?」
そんなアリスの悩みを知ってか知らずか青年が心配したように言う。アリスは極力回りくどい言い方を選んだ。
「あ、ええと……さっきのはどうだった?」
もう青年がその問いには答えているはずなのに、上手く言えずにもう一度自分から訊いてしまった。アリスは心の中で失敗した!と悔やんだ。
「え、さっきも言ったと思うけど、本当に凄かったよ!」
「私が魔法使いだってのには、どう思った?」
「そこも驚いたかな。だってなんだか僕のイメージでは魔法使いってもっとお婆さんなイメージだったから」
「怖く……ないの?」
「え?」
「だって、人間じゃないのよ、私」
いまいちアリスの言う事を理解できていない青年に、アリスはゆっくりとその意味を教える。
「私の言う魔法使いってのはね、職業じゃないの。確かに人間で魔法使いって名乗ってるのもいるけど、私の場合は魔法使いと言う種族。人間ではなく魔法使いと言うれっきとした一種族なのよ。それでも、貴方は私を怖くないと言える?」
アリスは青年の方を真剣に見つめる。しかしアリスの真剣さとは裏腹に、青年は何食わぬ顔で言った。
「でも、アリスはアリスでしょ?」
「え?」
「たとえ人間だろうが魔法使いだろうが、僕を助けてくれたのはアリスの他ない。そんな恩人に怖いだなんて思えるはずないよ」
臆面もなくそう言うので、アリスはしばらく空いた口が塞がらなかった。不意に青年の率直さを目の当たりにしたアリスは、青年から慌てて顔を逸らした。
「そ、それならいいの! ほら、早く行かないと日も暮れちゃうわよ!」
「わ、わ、どうしたの、いきなりそんな急いで」
「なんでもないわ、ほら、行くわよ!」
青年の方を振り向かず、アリスは歩く速度を上げた。後ろから慌ててついてくる青年に、アリスは心の中でありがとう、と言った。自然と笑みがこぼれてくる。 でもその笑みを青年に向けるのはなんだか恥ずかしい気がして、湧いてくる感情が落ち着くまでアリスは青年の方に振り向く事はなかった。
その後は無事に何事もなく服屋に着き、服を買い、ついでに食料も買ってアリスの家まで戻ってきた。本来アリスは魔法使いなので食事を取る必要もないのだが、食事や睡眠は人間のそれと変わらないので普段よりも多めに買って来た。もちろん荷物は青年持ちである。
「こ、こんなに買うのかい……?」
「だって食い扶持が増えたじゃない、ねぇ?」
意地悪に返すアリスに、青年は少しばかり困った顔をした。
「それを言われると辛いなぁ……」
魔法の森は陰になる部分が多いので、日が傾くと一気に暗くなる。さっきまで明るかったのに一気に暗くなった外を見て、青年はため息を洩らした。
「本当にここらへんは人がいないんだね」
「もともとこの魔法の森は人には有害な場所なのよ」
「え……」
それを聞いて青年が言葉を失う。なにせ行きも帰りもこの魔法の森を通ってきたので、青年は自分の体に変化が起きていないか心配になり様々なところを触ったりして確かめた。そんな姿にアリスは呆れながら言う。
「何やってるのよ……貴方には私が魔法を掛けておいたわよ」
「魔法?」
「そう、魔力で貴方の周りに防御壁を張っておいたわ、家を出る前にね」
「な、何で言ってくれなかったんだい?」
「まぁ、訊かれてないし、話す事もないかなーと思って」
「な、なるほど……でもそんな事してくれてたんだね、ありがとう」
またも不意打ち的な青年の笑み。アリスはどきんと心臓が高鳴るのが分かったが、努めて冷静に言った。
「ま、まぁわざわざ助けたのにそんなとこでまた危険な目に会って欲しくないじゃない? それよりさっさと夕飯を作ってしまわないと……」
話題を上手く逸らそうとするアリス。それでも確かに普段のアリスの予定よりも幾分遅くなってしまっているので、夕飯を早く作ってしまわないといけないのは事実だった。
「僕が作るよ」
「へ?」
予想外の展開に、アリスは驚きっぱなしだった。
「だって、貴方、作れるの?」
「うん……確証はないけど、きっと体が覚えてると思う。動かすうちに思い出すんじゃないかな」
あはは、と笑いながら言う青年。アリスは楽天的ね、と呆れたように呟く。
「ところでアリス、火はいつもどうしてるの?」
青年は言うや否や足早に準備をしていた。買って来た野菜を取り出し、かめから水を汲んで洗う。包丁を探し出してそれらを手早く切る。その一連の動作にアリスは見とれていた。
「アリス?」
青年の二回目の呼びかけで、アリスはようやく反応した。
「え、あ、火?」
「そう、どうやってるのかなーって」
青年が台所周りを見渡すが、火を使える様な場所は見当たらない。何かの窪みのような場所があるにはあるが、火が出るようには見えなかった。
「ああ、火わね……」
アリスはそういって台所の棚から固形の何かを取り出し、その窪みにはめた。青年が不可思議な表情で見ていると、アリスはなにやら呪文のようなモノを唱え始めた。そして指をその窪みに向かって指し示す。すると、ボッと言う音と共に炎が出てきた。
「そ、それも魔法?」
青年が驚いた顔で訊く。アリスは少し得意顔でまあね、と答えた。
「さっきのは魔法の森の茸を原料にした魔法の触媒。それを媒介に火の精霊に働きかけたのよ」
「人形を操る以外の魔法も使えるのか……」
「あくまで私の魔法は人形繰り。こういったのは日常に役立てる程度よ」
アリスはそう付け足した。それでも青年は凄いとアリスに感心し、再び調理に取り掛かった。アリスも青年の台所姿を確認し、自室に行くといってその場を後にした。
自室に篭もり、ドアを閉める。アリスは椅子に腰掛け、空に浮かぶ満月を眺めた。
「まさかね……」
アリスは今日一日の青年の様子を思い出していた。村に違和感を覚えたところから始まり、魔法への驚き方、魔法の森を知らなかったことなど、不思議な点はい くつもあった。アリスは机に置いてある本の中から一冊を抜き出す。その本には、外の世界の人間というタイトルが書いてあった。
「つい最近紅魔館から借りてきた本なのに……」
紅魔館の図書館には割と足を運ぶアリスが、ふと気になって借りてきた本がそれだった。一週読んだのだが、そこに書いてある人間は余りにも滑稽な姿だった。その時はこんな人間いるものか、と思っていたが……
「これは……言うべきなのかしら」
誰もいない空間に問う。青年に外の世界に人間であるかもしれない、と言うべきか否か。アリス以外誰もいない空間は、その答えをアリスには返す事はない。散々迷っていると、遠くの方から自分を呼ぶ声が聞こえた。
「あれは、夕飯が出来たのかしら?」
椅子から立ち上がり、ドアを開ける。声の主は青年で、ご飯が出来たらしいとの事。アリスは思考を中断させて青年の元に向かう事にした。本を閉じて今度は本棚にしまう。
(まだ……良いわよね)
そう自分に言い聞かせつつ、アリスは自室からリビングに向かった。
事も無げに言うアリスに、青年は少々押され気味ながらも頷きつつその場を後にした。喧騒が遠く聞こえるようになった頃、青年がアリスに言った。
「あれは……なんなんだい?」
「魔法よ。魔法で私が操ってたの」
それが普通であるかのようにアリスは言う。青年はそんなの信じられるかといった表情でアリスに訊いた。
「魔法なんてあるものか。あれだって絶対に何か仕掛けがあるんだろう?」
「何でそんなこと言うのよ、あなた自身今さっき眼にしたじゃない」
「そもそも、僕は魔法なんて実際に見た事がな……あれ?」
自分の発言にとまどう青年。アリスも発言の違和感を理解した。
「実際に見た事がないって……記憶が戻ったの!?」
立ち止まって目を瞑る青年。アリスはその様子を心配そうに見つめる。だが、目を開けた青年は明るい表情をしてはいなかった。
「ダメだ……でも、確かに僕は魔法なんてさっき初めてみた、これは確かだと思う。何故かははっきりと言えないけど……あんな不思議な光景は感覚的に初めてだ」
青年の発言を聞いたアリスは、若干思うところがありながらもそれを口にはせず
「無理して思い出す必要はないわ。少しずつ思い出していきましょ、それより、あれは不思議な光景じゃなくってれっきとした魔法なんだってば」
と、言葉に少しばかりの不満を篭めて青年に抗議した。青年は申し訳なさそうにしながら、本当に魔法なのかい、と再び訊いた。
「ええ、そうよ。私は人形遣い。ただの人形を、魔法で操るのが私の魔法」
「じゃあ、人形には何も細工がされてない?」
「もちろんよ、見てみる?」
アリスは鞄から一体の人形を取り出して青年に渡した。青年は人形の各部を動かしたり、色んな角度から見たりしたが、おかしい所は見つけられなかった。
「確かに普通の人形だ……じゃあやっぱりアリスが動かしてたのか」
「だからさっきからそう言ってるじゃない」
青年はやっとの事でアリスの魔法を認めた。そして、その瞬間今度は急に大きな声でアリスを誉めた。
「凄いや! アリスは魔法使いだったのか!」
「きゅ、急にどうしたのよ……」
「だって凄いじゃないか! あんな事が出来るなんて」
「べ、別に凄くないわよ」
「それにしても今までずっとそんな事教えてくれなかったから、余計に驚いたよ」
青年に言われ、アリスはふと今までの事を思い返す。確かに青年に自分が魔法使いだとは言っていなかったかもしれないと思うと、少し不安な気持ちにもなっ た。青年に自分の印象が変わったか聞きたい気持ちと、それが怖くて言えない気持ちが渦巻く。もし自分に変な印象を持ってしまわれたら……そう思うとなんだ か胸がチクリと痛んだ。
「どうしたの?」
そんなアリスの悩みを知ってか知らずか青年が心配したように言う。アリスは極力回りくどい言い方を選んだ。
「あ、ええと……さっきのはどうだった?」
もう青年がその問いには答えているはずなのに、上手く言えずにもう一度自分から訊いてしまった。アリスは心の中で失敗した!と悔やんだ。
「え、さっきも言ったと思うけど、本当に凄かったよ!」
「私が魔法使いだってのには、どう思った?」
「そこも驚いたかな。だってなんだか僕のイメージでは魔法使いってもっとお婆さんなイメージだったから」
「怖く……ないの?」
「え?」
「だって、人間じゃないのよ、私」
いまいちアリスの言う事を理解できていない青年に、アリスはゆっくりとその意味を教える。
「私の言う魔法使いってのはね、職業じゃないの。確かに人間で魔法使いって名乗ってるのもいるけど、私の場合は魔法使いと言う種族。人間ではなく魔法使いと言うれっきとした一種族なのよ。それでも、貴方は私を怖くないと言える?」
アリスは青年の方を真剣に見つめる。しかしアリスの真剣さとは裏腹に、青年は何食わぬ顔で言った。
「でも、アリスはアリスでしょ?」
「え?」
「たとえ人間だろうが魔法使いだろうが、僕を助けてくれたのはアリスの他ない。そんな恩人に怖いだなんて思えるはずないよ」
臆面もなくそう言うので、アリスはしばらく空いた口が塞がらなかった。不意に青年の率直さを目の当たりにしたアリスは、青年から慌てて顔を逸らした。
「そ、それならいいの! ほら、早く行かないと日も暮れちゃうわよ!」
「わ、わ、どうしたの、いきなりそんな急いで」
「なんでもないわ、ほら、行くわよ!」
青年の方を振り向かず、アリスは歩く速度を上げた。後ろから慌ててついてくる青年に、アリスは心の中でありがとう、と言った。自然と笑みがこぼれてくる。 でもその笑みを青年に向けるのはなんだか恥ずかしい気がして、湧いてくる感情が落ち着くまでアリスは青年の方に振り向く事はなかった。
その後は無事に何事もなく服屋に着き、服を買い、ついでに食料も買ってアリスの家まで戻ってきた。本来アリスは魔法使いなので食事を取る必要もないのだが、食事や睡眠は人間のそれと変わらないので普段よりも多めに買って来た。もちろん荷物は青年持ちである。
「こ、こんなに買うのかい……?」
「だって食い扶持が増えたじゃない、ねぇ?」
意地悪に返すアリスに、青年は少しばかり困った顔をした。
「それを言われると辛いなぁ……」
魔法の森は陰になる部分が多いので、日が傾くと一気に暗くなる。さっきまで明るかったのに一気に暗くなった外を見て、青年はため息を洩らした。
「本当にここらへんは人がいないんだね」
「もともとこの魔法の森は人には有害な場所なのよ」
「え……」
それを聞いて青年が言葉を失う。なにせ行きも帰りもこの魔法の森を通ってきたので、青年は自分の体に変化が起きていないか心配になり様々なところを触ったりして確かめた。そんな姿にアリスは呆れながら言う。
「何やってるのよ……貴方には私が魔法を掛けておいたわよ」
「魔法?」
「そう、魔力で貴方の周りに防御壁を張っておいたわ、家を出る前にね」
「な、何で言ってくれなかったんだい?」
「まぁ、訊かれてないし、話す事もないかなーと思って」
「な、なるほど……でもそんな事してくれてたんだね、ありがとう」
またも不意打ち的な青年の笑み。アリスはどきんと心臓が高鳴るのが分かったが、努めて冷静に言った。
「ま、まぁわざわざ助けたのにそんなとこでまた危険な目に会って欲しくないじゃない? それよりさっさと夕飯を作ってしまわないと……」
話題を上手く逸らそうとするアリス。それでも確かに普段のアリスの予定よりも幾分遅くなってしまっているので、夕飯を早く作ってしまわないといけないのは事実だった。
「僕が作るよ」
「へ?」
予想外の展開に、アリスは驚きっぱなしだった。
「だって、貴方、作れるの?」
「うん……確証はないけど、きっと体が覚えてると思う。動かすうちに思い出すんじゃないかな」
あはは、と笑いながら言う青年。アリスは楽天的ね、と呆れたように呟く。
「ところでアリス、火はいつもどうしてるの?」
青年は言うや否や足早に準備をしていた。買って来た野菜を取り出し、かめから水を汲んで洗う。包丁を探し出してそれらを手早く切る。その一連の動作にアリスは見とれていた。
「アリス?」
青年の二回目の呼びかけで、アリスはようやく反応した。
「え、あ、火?」
「そう、どうやってるのかなーって」
青年が台所周りを見渡すが、火を使える様な場所は見当たらない。何かの窪みのような場所があるにはあるが、火が出るようには見えなかった。
「ああ、火わね……」
アリスはそういって台所の棚から固形の何かを取り出し、その窪みにはめた。青年が不可思議な表情で見ていると、アリスはなにやら呪文のようなモノを唱え始めた。そして指をその窪みに向かって指し示す。すると、ボッと言う音と共に炎が出てきた。
「そ、それも魔法?」
青年が驚いた顔で訊く。アリスは少し得意顔でまあね、と答えた。
「さっきのは魔法の森の茸を原料にした魔法の触媒。それを媒介に火の精霊に働きかけたのよ」
「人形を操る以外の魔法も使えるのか……」
「あくまで私の魔法は人形繰り。こういったのは日常に役立てる程度よ」
アリスはそう付け足した。それでも青年は凄いとアリスに感心し、再び調理に取り掛かった。アリスも青年の台所姿を確認し、自室に行くといってその場を後にした。
自室に篭もり、ドアを閉める。アリスは椅子に腰掛け、空に浮かぶ満月を眺めた。
「まさかね……」
アリスは今日一日の青年の様子を思い出していた。村に違和感を覚えたところから始まり、魔法への驚き方、魔法の森を知らなかったことなど、不思議な点はい くつもあった。アリスは机に置いてある本の中から一冊を抜き出す。その本には、外の世界の人間というタイトルが書いてあった。
「つい最近紅魔館から借りてきた本なのに……」
紅魔館の図書館には割と足を運ぶアリスが、ふと気になって借りてきた本がそれだった。一週読んだのだが、そこに書いてある人間は余りにも滑稽な姿だった。その時はこんな人間いるものか、と思っていたが……
「これは……言うべきなのかしら」
誰もいない空間に問う。青年に外の世界に人間であるかもしれない、と言うべきか否か。アリス以外誰もいない空間は、その答えをアリスには返す事はない。散々迷っていると、遠くの方から自分を呼ぶ声が聞こえた。
「あれは、夕飯が出来たのかしら?」
椅子から立ち上がり、ドアを開ける。声の主は青年で、ご飯が出来たらしいとの事。アリスは思考を中断させて青年の元に向かう事にした。本を閉じて今度は本棚にしまう。
(まだ……良いわよね)
そう自分に言い聞かせつつ、アリスは自室からリビングに向かった。
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