青年がアリスの家に厄介になる事は決まったが、そうなると色々問題も出てくる。
「何て呼べばいいのかしら?」
まずアリスが真っ先に挙げた問題は、青年の呼び名だった。なにしろ青年自身が名前を忘れてしまっているため、本名が分からない。ふとアリスはとある考えを思いついたのだが、
「何て呼べばいいのかしら?」
まずアリスが真っ先に挙げた問題は、青年の呼び名だった。なにしろ青年自身が名前を忘れてしまっているため、本名が分からない。ふとアリスはとある考えを思いついたのだが、
「香霖さんに聞けば…ってあれは物の名前か」
「香霖さん?」
「ここらへんに住む変人でね、物を見るだけで名前と用途が分かるのよ」
「本当かい? 信じられないな……」
「ま、あくまで物だから貴方の事は分からないと思うわ」
結局自分の名前を思い出す糸口にはならないので、青年は少しガッカリした気分になった。
「何て呼べばいいかしら?」
さっきと同じことを呟いて、頭を抱えるアリス。そんな様子のアリスを見て青年はさも普通に言った。
「いいよ。貴方、で」
青年の方からそう言われても、アリスはなかなか首を縦に振らない。青年がどうしてかと訊くと、なんとも可笑しな答えが返ってきた。
「だって、貴方は私のことをアリスって名前で呼ぶじゃない? なのに私は貴方のことを名前でなく貴方としか呼べないなんて……不公平だわ、不公平よ」
青年はアリスが何故そこまで自分の名前にこだわるのか気になったが、実は当のアリスも何故こんなことに気を揉んでしまうのかよくわからなかった。よくわからないなりに、どうしようか考えていた。
しかしいつまで経っても結論はでないので、とりあえず青年の言うとおりアリスは青年を貴方と呼ぶことにした。
「今は貴方と呼ぶことにするけど……名前を思い出したらすぐに言いなさいよ?」
語尾に随分力を込めて言ったので、青年は頷くことしか出来なかった。まずは一つ目の問題をクリアしたところで、すぐに二つ目の問題がアリスの頭を悩ませる。
「服がないわ」
アリスの館は迷い人を泊める事はあっても、あくまで一宿のみのような感じだったので長期で留まる人はこれが初めてだった。そしてアリスの館はもちろん宿泊施設でないため、来客用の用意なんて何もない。ましてや異性の為の物なんてもってのほかだった。
「何処か買える所はあるの?」
青年が窓の外を見るが……もちろんここ周辺の魔法の森にはそんな店のようなものはない。アリスはため息をつくと、外に出かける準備を始めた。
「お、おい、何処に行くんだい?」
「里よ。人間のね」
少しばかりの金と人形の入った鞄を持ち、アリスは靴を履く。人間という単語を聞いた青年もとりあえずアリスについて行くことにした。
魔法の森を出て数十分、人の姿がちらほらと見え始める。
「ここらへんの景色に見覚えはない?」
アリス達が居るのはちょうど人間の里と魔法の森の境界のような場所だった。アリスに聞かれた青年は目を瞑って考え込むが、引っかかるようなものはなかった。
「ごめん……」
「あ、気にしないで。流石にそこまですぐに思い出せるようなものじゃないでしょ」
青年が本気で落ち込むので、アリスは焦りながらフォローをする。歩きながら話をしたり動作を見たりしてアリスが思った事は、この青年は本当に実直で真面目なんだな、という事だった。
「随分と人が居るね」
人間の里に着いた青年は、意外な人の多さに驚いた。さっきまでの魔法の森と比べると民家の数や人の多さは段違いだ。
「逆に人間なんてここらへんにしか居ないわ」
アリスが皮肉ったように言う。しかし青年はそんな皮肉には気づかず、ただアリスの言うことを感心しながら聞いた。
「それにしても……みんな和服だ」
青年が感じた違和感。それは人間の服装である。自分の着ているような洋服を着た人間はまったくいなかった。誰もが和服、そして昔どこかで読んだ本に書いてあったような家、青年は改めてこの場所に疑問を持った。
「ここは日本なのか……?」
「日本? 正確には違うわ、ここは幻想郷よ」
「記憶を失って、さらには知らない土地にいる。どうすればいいんだ撲は……?」
青年はまるで魂が抜けたかのように呟く。実際には魂が抜けるどころかその心は恐怖で一杯だった。だが横のアリスは案外あっけらかんとしている。
「大丈夫よ、時間が全てを解決してくれるわ」
そっけなく、それでもしっかりと青年に言う。青年もアリスの言葉を受け不思議と元気が出てきた。
「そうだね、うん。なんとかなるか」
「そうそう、少しばかり体の力を抜いた方がいいわ。なんせこの幻想郷はそんな連中しかいないのだから」
ふふ、とアリスが笑う。釣られて青年も笑い出す。
その時、遠くに居た子供達がアリスがいることに気がついた。子供達は一斉にアリスのほうに駆け寄る。
「人形使いのねーちゃんだ!」
「ねぇ、今日は何かやってくれないの?」
「隣に居る人だぁれ?」
あっという間にアリスと青年は子供達に囲まれてしまった。アリスはため息、青年は驚きの表情。
「な、なんで子供達が?」
「あー、私目当てね」
「アリス? どうして?」
「まぁ、しょうがないか。貴方も子供達と一緒に御覧なさいな」
アリスに促され、青年は子供達の集団に加わる。子供達はこれからアリスがすることを知っているらしかったので、青年は横に居る子供に訊いてみた。
「なぁ、アリスは何をやってくれるんだい?」
「あれ? にいちゃん一緒に歩いてたのに知らないの?」
「あれは成り行き上というか……そんな感じだからね」
「ふーん、付き合ってんの?」
「なっ!?」
アリスが準備をしているのをよそに青年は思わず吹き出してしまった。
「ち、違うって! 僕は……」
「しっ! 始まるよ」
結局青年は何が始まるのかわからないままだった。子供達は皆アリスの方に釘付けになっていた。そんな子供達と青年を前に、アリスは両手を大きく広げ……
「さぁ、七色の人形遣い、アリス・マーガトロイドの人形繰りの始まり始まり」
その言葉と共に、アリスの目の前に置いてあった人形が一斉に動き出した。
「香霖さん?」
「ここらへんに住む変人でね、物を見るだけで名前と用途が分かるのよ」
「本当かい? 信じられないな……」
「ま、あくまで物だから貴方の事は分からないと思うわ」
結局自分の名前を思い出す糸口にはならないので、青年は少しガッカリした気分になった。
「何て呼べばいいかしら?」
さっきと同じことを呟いて、頭を抱えるアリス。そんな様子のアリスを見て青年はさも普通に言った。
「いいよ。貴方、で」
青年の方からそう言われても、アリスはなかなか首を縦に振らない。青年がどうしてかと訊くと、なんとも可笑しな答えが返ってきた。
「だって、貴方は私のことをアリスって名前で呼ぶじゃない? なのに私は貴方のことを名前でなく貴方としか呼べないなんて……不公平だわ、不公平よ」
青年はアリスが何故そこまで自分の名前にこだわるのか気になったが、実は当のアリスも何故こんなことに気を揉んでしまうのかよくわからなかった。よくわからないなりに、どうしようか考えていた。
しかしいつまで経っても結論はでないので、とりあえず青年の言うとおりアリスは青年を貴方と呼ぶことにした。
「今は貴方と呼ぶことにするけど……名前を思い出したらすぐに言いなさいよ?」
語尾に随分力を込めて言ったので、青年は頷くことしか出来なかった。まずは一つ目の問題をクリアしたところで、すぐに二つ目の問題がアリスの頭を悩ませる。
「服がないわ」
アリスの館は迷い人を泊める事はあっても、あくまで一宿のみのような感じだったので長期で留まる人はこれが初めてだった。そしてアリスの館はもちろん宿泊施設でないため、来客用の用意なんて何もない。ましてや異性の為の物なんてもってのほかだった。
「何処か買える所はあるの?」
青年が窓の外を見るが……もちろんここ周辺の魔法の森にはそんな店のようなものはない。アリスはため息をつくと、外に出かける準備を始めた。
「お、おい、何処に行くんだい?」
「里よ。人間のね」
少しばかりの金と人形の入った鞄を持ち、アリスは靴を履く。人間という単語を聞いた青年もとりあえずアリスについて行くことにした。
魔法の森を出て数十分、人の姿がちらほらと見え始める。
「ここらへんの景色に見覚えはない?」
アリス達が居るのはちょうど人間の里と魔法の森の境界のような場所だった。アリスに聞かれた青年は目を瞑って考え込むが、引っかかるようなものはなかった。
「ごめん……」
「あ、気にしないで。流石にそこまですぐに思い出せるようなものじゃないでしょ」
青年が本気で落ち込むので、アリスは焦りながらフォローをする。歩きながら話をしたり動作を見たりしてアリスが思った事は、この青年は本当に実直で真面目なんだな、という事だった。
「随分と人が居るね」
人間の里に着いた青年は、意外な人の多さに驚いた。さっきまでの魔法の森と比べると民家の数や人の多さは段違いだ。
「逆に人間なんてここらへんにしか居ないわ」
アリスが皮肉ったように言う。しかし青年はそんな皮肉には気づかず、ただアリスの言うことを感心しながら聞いた。
「それにしても……みんな和服だ」
青年が感じた違和感。それは人間の服装である。自分の着ているような洋服を着た人間はまったくいなかった。誰もが和服、そして昔どこかで読んだ本に書いてあったような家、青年は改めてこの場所に疑問を持った。
「ここは日本なのか……?」
「日本? 正確には違うわ、ここは幻想郷よ」
「記憶を失って、さらには知らない土地にいる。どうすればいいんだ撲は……?」
青年はまるで魂が抜けたかのように呟く。実際には魂が抜けるどころかその心は恐怖で一杯だった。だが横のアリスは案外あっけらかんとしている。
「大丈夫よ、時間が全てを解決してくれるわ」
そっけなく、それでもしっかりと青年に言う。青年もアリスの言葉を受け不思議と元気が出てきた。
「そうだね、うん。なんとかなるか」
「そうそう、少しばかり体の力を抜いた方がいいわ。なんせこの幻想郷はそんな連中しかいないのだから」
ふふ、とアリスが笑う。釣られて青年も笑い出す。
その時、遠くに居た子供達がアリスがいることに気がついた。子供達は一斉にアリスのほうに駆け寄る。
「人形使いのねーちゃんだ!」
「ねぇ、今日は何かやってくれないの?」
「隣に居る人だぁれ?」
あっという間にアリスと青年は子供達に囲まれてしまった。アリスはため息、青年は驚きの表情。
「な、なんで子供達が?」
「あー、私目当てね」
「アリス? どうして?」
「まぁ、しょうがないか。貴方も子供達と一緒に御覧なさいな」
アリスに促され、青年は子供達の集団に加わる。子供達はこれからアリスがすることを知っているらしかったので、青年は横に居る子供に訊いてみた。
「なぁ、アリスは何をやってくれるんだい?」
「あれ? にいちゃん一緒に歩いてたのに知らないの?」
「あれは成り行き上というか……そんな感じだからね」
「ふーん、付き合ってんの?」
「なっ!?」
アリスが準備をしているのをよそに青年は思わず吹き出してしまった。
「ち、違うって! 僕は……」
「しっ! 始まるよ」
結局青年は何が始まるのかわからないままだった。子供達は皆アリスの方に釘付けになっていた。そんな子供達と青年を前に、アリスは両手を大きく広げ……
「さぁ、七色の人形遣い、アリス・マーガトロイドの人形繰りの始まり始まり」
その言葉と共に、アリスの目の前に置いてあった人形が一斉に動き出した。
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